Day2:新人騎士、手紙を書く

拝啓、アルカールカ海底騎士団第二十二小隊隊長様。
キノイーグレンス・リーガレッセリーは元気です。生きてます。なんかいろいろあって、アビス・ペカトルも捕まえたままです。捕まえたままというか、なんか離れられなくなってるんですけど、それってもう捕まえたのと同義ですよね。ただなんか、騎士団章を移動の衝撃でどっかやってしまったみたいなので、それを探してから戻ろうと思います。すいません。よろしくお願いします。

追伸。
この手紙を受け取った見知らぬ誰かへお願いです。恐らく郵便が海底探索協会から出せると思うので、一枚目の手紙を出してください。会う機会があればお礼はします。
よく分かんなかったら捨ててください。

「……アルカールカ海底騎士団第二十二小隊、キノイーグレンス・リーガレッセリー……っと……」

あまりにも悲しい、というか書きたくない手紙を書いている。いやもう他人にお願いの時点でつらさが高まっているし、報告で団章なくした報告を入れているのもつらい。
切手の代わりに少しの魔力を込めた陣を指で描いて、長々とした宛先も同様に綴る。ペンで書いた上からアルカールカ式魔術文字を書いて、最後に騎士団のマークを綴っておしまい。そらで書けるほど書きまくっておいてよかったと切実に思った。お前のその努力は別の方向に使うべき、と言われていたうちのひとつが無駄じゃなかったことが証明されたのだから。
いやそんなことはもうどうでもいいというか、今はとにかくなんとかして元いた世界と連絡が取れないかを試さなければならない。深海人どうにも焦ると簡単にできることにすら思い至らないようで、言われるまで郵便とか全く思いつかなかったのだ。俺としたことがハイパーうっかりである。
細く長く息を吐く。一人……いや、二人ぼっちはなんとか回避できそうだし、全く意図せずして組むことになったクソ野郎と違ってもう一人は一万倍くらいまともそうな人だし(罪人と比べるのがそもそも間違いなのでは?と思った)、とりあえず生きていけそうである。あとは失くしものが見つかるのが早いか、手紙が届いて応援が来るのが早いか、――あるいはあれがマジックアイテムを手に入れて逃げるのが早いか。

「めんっっっどくせぇ〜……」

なんてったってろくに一人で行動ができないのだ。宿は隣の部屋〜一つ開けて隣くらいまでだったら部屋で自由だけど、もしこの先隣の部屋が取れなかったらどうすればいいんだろうか。同室?いやちょっと生命の危険が危ない。却下。
そういうことも考えなきゃいけないだろうし、どうせあれはなーんにも考えてないというか、自分のことしか考えてなさそうだし(率直に言って死ね)、ひどい話だ。ひどい話だ、っていうか、いやもう何もかもがひどすぎるんだけど。現況とか。
とにもかくにも何と言っても、このテリメインのクッソ広い海から、なんとかして探さなければならないものがある。できたらクソほども望んでいない同伴者より先に。そしてできるだけ早く。

「……」

とはいえ、そこまで悲観していないのも事実だ。
遅かれ早かれ、仮にあれが先に逃げ出そうとも、迎えは来てくれる……という自信はあった。痕跡は確実に残っているだろうし、そこから行き先を読み取ってくれる人だって、たぶんいる。……たぶん。あっちょっと自信なくなってきた。いやたぶん平気平気。
今できることを順当にこなしておけば、きっと神様は微笑んでくれるはずなのだ。どの神にお祈りしとこうかな、と頭の中で思いつく限りで列挙し、十柱ほどで飽きた。その中だったら一番揺蕩う海藻の神がなんとかしてくれそうだった。一番年季の入った神なので、きっとなんでもしてくれる気がする。今からお祈りして徳積んでおかなきゃ。

「……あれやって、それやって、めんどくせえなあ、あーんもう……」

罪人クソ野郎はほんとこちらのことを手伝う気がミリもなさそうなので、自分ともう一人でなんとかするしかないのだ。陸で動ける人急募!なんてことする前に、いい人が見つかってよかった。本当によかった。
なるようになるでしょう、と。よくよく考えてみればこのくらい、深海の過酷さに比べたら、全然マシな気がしてきた。浅い海でへらへらへろへろしていた罰が当たった可能性については、考えなかったことにする。
部屋のドアを叩く音がした。

「おいーす!エリーさんっすか?いま出ます!」

脱獄した罪人。
巻き込まれた新人騎士。
それと、流れの研究者。

関連のなさそうな三人が、それぞれの目的で七つの海を泳ぐ探索者として、一処に集ってしまったのである。