Day17:クソネーレーイスの価値観


スキルストーンやらチューンジェムやらを抱えて、クソほど気に食わない罪人の部屋に行く。モノのやり取りは『仲間同士なので』当たり前。自分の使わないものを融通するのは『仲間同士なので』ふつうのこと。売りに出すよりは面倒ではない。癪だけど。
そのふつうのことをしに来て、いつものように要件だけ告げて(余計なことを言うと余計なことを言われたり喋ったりするので極力最低限のやり取りで済ませたいと思っているのだ。だいたい無理だけど)、部屋を出ようとしたところだった。

「アナタって、ワケの分からないところあるわよね」
「ハア?」

感慨深いというには情緒が足りない。皮肉と言うには毒が足りない。そんな言葉。

「もうちょっと、人を選ぶタイプかと思っていたけれど。そんなこともないんだもの」
「何のことっすか」

早く帰らせやがれクソッタレ俺には焼きナマコの消化が待っているんじゃ、という態度をまるで崩さないまま、かといって何を意図してその発言がなされたのか気になってしょうがないので無視して出ていくわけにも行かず、キノイは中途半端な格好で返事をする羽目になった。
相変わらずのこの、魚を魚として見ていないようなクソみたいな面、いつか助走をつけて全力でぶん殴りたい。三回くらい。

「海賊と取引、したでしょう?」
「それがどうかしたんスか」
「アレも罪人のようなものじゃない」
「ア?」
「アナタ、騎士団のくせして。いいのかしら」

何かと思えば。
取引相手をより好みしたことはない。それがいわゆる海賊――他の探索者を襲い、略奪する相手だろうと。

「で、それが何なんスか」
「だからワケのわからないところがあるのね、って言ったのよ」

キノイは正直、そこまで善悪に拘りがあるわけではない。騎士団にいるから、悪は捕らえよ(あるいは滅せよ)という命令が降りてくるだけだ。
そもそもここはアルカールカではないし、海賊がどうこうというのも、自分たちに何の火の粉もかからなければ、それでいいと思っている。海賊たちが跋扈する海域はキノイたちが探索しているところとは別で、セルリアンでもアトランドでも、その姿を見たことはない。

「よく罪人の金で鎧を新調できるわね。抵抗感とか無いの?」
「ぐちぐちぐちぐちうっるせえっすねどこの姑かなんかっすか!?俺たちに火の粉被ってないんだし別にいいじゃねえっすかそんなん!その辺が嫌なら自分でやれ!!」
「あら、私は気にするなんて一言も言ってないわよ。早とちりは止めなさいな」
「ハア〜お前のこと聞いてねえッスもういいです!!俺にナマコを食わせろ!!てめーの口にナマコ突っ込むぞ!!」

早い話がこれ、またいいように言われているだけなのではないか。それに気づいてしまった以上、真っ当な返事はしたくなかった。この際もうナマコ狂い枠でもいいとさえ思った。ナマコ狂い呼ばわりされるより、この会話がめんどくさい!

「――別に、アナタのスタンスなんてどうでもいいけれど。そのうち、足を取られないといいわね」
「俺が足取られたらあんたたちも巻き添えですけどね」
「エリーさん、可哀想ねェ」

――気づく。気づかなくても良かったのかもしれないが、気づいてしまった以上はもうどうしようもない。なんだかんだで二週間嫌でも一緒にいた結果、声色の変化を判別できるようになっていた自分がいるのだ。
このクソネーレーイス、本当に純粋(かどうかはこの際置いといて)に疑問に思っていただけらしい!

「それ、本人の前で言ったらどうですかね?」

価値観の違いが横たわっている。それはまあ、同じ世界の出とはいえ、種族も育ちもまるで違うのだし、当たり前のことだ。悔しいかなその違いが引っかかるようになると、嫌悪とか何やらはすっ飛ばして、興味のほうが先行する。――思えば(当たり前だけど)ここまで、まるでこのネーレーイスのことを知らずにここまで来ている。
とはいえ癪なことに変わりはないし、ひとつの気づき程度で態度を軟化させてやるほど優しくもなかった。可能な限り嫌味ったらしく言葉を吐き出して、部屋のドアを閉めた。