Day3:エレノア・エヴァンジェリスタ・アルマスの手記 2P目

十分に魔術を使えることが、こんなに楽しいとは思わなかった。

そもそも、テリメインに来た理由の一つが、私が魔術を扱えることにある。
カベル・テックス(これ以降は略称のカベルと書く)には、魔力がほぼ存在しない。厳密にいうと、あるにはあるけれど、扱えるのは、元から魔力を持っている者たちに限られる。自分の魔力を受け皿にして、空間の魔力を引き込んで使うイメージだから。

人間も、昔は魔力をその身に備えていて、魔術を扱えたのだというけれど、技術が発達して、その便利さに慣れ切ってしまったこと。そして、魔術を扱えるものたち??異形たちを、異質だと徹底的に排斥してしまったことで、誰も使わなくなってしまった。使おうとすれば、同じように迫害されてしまうから。
結果、彼らは影に隠れて潜み、人間の前には姿を現さなくなってしまった。だから、魔力の使い方も、魔術も、忘れられてしまった。

私も、18歳で時忘れに出会うまで、異形たちの事はおとぎ話のようにしか思っていなかったくらい。
それだけ、カベルの人間と異形たちには、深い溝がある。
こんな状況で、人間でありながら魔術が使える、ということを考えてもらうと、私がこの世界に来た理由の一つに挙げるのも、納得してもらえると思う。
カベルに居続ければきっと、近いうちには、あまり面白くない事態になっていただろうから。

だから、書き出しに戻るけれど、今回の試験で、人前で堂々と魔術が使えたことが、とっても嬉しかったし、楽しかった。
この世界では魔術が扱えたとしても、白眼視されることがない。というより、使える人の方が圧倒的に多いから、問題視されない。それがどれだけ素敵なことか、分かってくれる人はいるだろうか。いてくれたらいいな。

私自身が持っている魔力は、おそらく他の、魔術を使える人に比べれば少ない方だ。けれど、魔導石を用いれば、テリメインの魔力を借りて、これまでの術式だけでなく、複雑な術式をも構成することが出来る。
まだ、一、二回試したくらいだし、構成は甘いけれど、少しずつ調整していけば、きっとこの世界でも十分通用するくらいにはなるはず。

正直に書くと、とってもわくわくしてる。
だって、カベルでは、せいぜい火をおこしたり、小さな灯りを灯すのが限界だったのに、それ以上のことができるかもしれない。なんて、夢のある話だろう。
それにここには、たくさんの魔術の使い手がいる。もしかしたら、世界の理すら動かす術、魔法を使える人だっているかもしれない。
話を聞くことが出来たら、その力を見せてもらえたら、きっともっとすごいことだって思いつくかもしれないし、それすら実行できるかもしれないんだ。
読んでいる人には見えないだろうけど、書きながらはしゃいでる。楽しみだなあ。

これからの予定としては、拠点となる街をまわってみることにしている。
今はまだ一人だけど、誰か気の合う人と出会えたら、その人と一緒に探索に行くのもいいかもしれない。せっかくだし、何事も、挑戦してみるんだ。
まずは行動。それから、これから先のことを考えよう。

[手記2P目:魔術についてと、これから待つ出会いについて]