Day8:科学の世界のカメラ

今日は特に怪我もなく、みんな無事で探索を終えることが出来た。
前の探索でドリスを傷つけたクマノミにも、苦戦することはなかったし。セイレーンは思っていたの、というか、事前に入れていた知識と全く違ったけれど、あれはこの世界だからなんだろうか。本当に、ここは不思議な場所だ。
探索を重ねて、私も少しずつだけど、水中での戦闘に慣れてきた。スキルストーンを使って覚えた魔術が、私の魔力に合っているのもよかったのかも。二人よりも速く動けることを活かして、相手の行動を阻害したり、二人の補助をしたり、できることが増えていくのが嬉しい。行ったことのなかった海の中で、ある程度自由に動けるのも、とても楽しい。そういった意味では、今は、とても充実していると思う。

「――じゃあ、また後でね」

ホテルの中、水のある部屋に向かう二人と別れて、私はひとり、自分に宛がわれた部屋へと戻った。


探索用の水着から普段着に着替えて、おもむろに部屋の隅に置いていたトランクを引き出す。
見た目は普通の、ちょっと古めかしい革張りのトランクだ。けれど、これもカベルの技術を使って作られたもので、なおかつ世界を超えても機能を失わなかった適合品。その機能は、外見からは想像もできないほどの収納スペースを持つことにある。このトランクだと、だいたいクローゼット一つ分くらいは収納できて、入れた順番も関係なく自由にものを出し入れできる。しかも、私の生体認証コードでしか開かない。そこまでのセキュリティは少し過剰な気もするけれど、何があるかはわからないし、用心するに越したことはないしね。
手を乗せて、ロックを解除する。小さな電子音と一緒に、鍵が外れたのを確認してから、トランクを開いた。外見のクラシックなイメージと打って変わって、中は穴が開いているみたいに真っ暗だ。

「ええっと……認識、してるよね。なら、えい」

手をかざす。光が灯って、空中にウィンドウを形作る。立体映像によるユーザー・インターフェイスだ。システムの起動を確認してから、メニューを展開して、収めた荷物の一覧を表示させる。取り出したいものの名前に触れて、選択して、取り出せるように、と。
音もなく浮かぶように出てきたのは、届いていたボトルシップメッセージが二つ。探索だなんだって、ばたばたしていて、届いたのはいいけれど、確認だけしかできていなかったから。
このボトルシップメッセージから繋がって、手紙をやりとりしたり、実際に会いに来てくれたひともいる。
まだきちんと見れていなかったものを手に取って、見ていくことにした。

「あ、れ、これって……ウニ?」

一つ目のボトルに入っていたのは、とげとげした丸い物体。探索中の海中で見かけたことがある。確か、食用にもなる、はずの、ウニだ。このボトルは私が流したものだから、これに入られてきた、ということは、拾ったひとがいたということだろうけど。何を思ってウニを入れたのかは、メッセージがないからわからない。
食べられるかどうかは、キノイかドリスに聞いてみた方がいいかもしれない。海のものに関しては二人の方が詳しいし。

「これ、わ、お返事入ってる!」

もう一つのボトルには、手紙と、小さな人形。嬉しくて、手紙に目を通す。インクは気に入ってもらえたみたい。
差出人はビハイヴ、というひとだ。拾ってもらえて、しかもお返事にプレゼントまでもらえた。人形は木で出来ているようで、とてもかわいい。大事にしよう。
このひととも、どこかで会えたらいい。昆布の怪人だという彼や、ネリーにヴェラートみたいに。それとも、協会を通じてメッセージを返そうか。ソラや紫夏みたいにメッセージをやりとりできるのもきっと楽しいから。どんな話が聞けるだろう。いや、どんな話だって、きっと新鮮で、素敵なものには違いないけど。

二つのボトルを、もう一度トランクの中に戻す。収納の指示を出せば、溶けるように消えてしまう。いつ見ても、一瞬、なくなってしまったんじゃないかって、不安になる。けど、メニューにはちゃんと名前が載っているし、呼び出せばまた出てくるから、大丈夫なんだけども。
他に取り出すものがないかチェックしてから、システムを終了。また真っ暗になったトランクを、そっと閉じる。同時にロックがかかる音。
こうして外見だけを見るなら、何の変哲もないトランクなんだけどな。こういったもの一つ取っても、カベルの技術はひどく進んでいる。それが良いことか、昔なら迷いなく便利だし良いことだって頷いただろうけど。今は、……よくわからない。

コンコン、とドアをノックする音。私の部屋に用があるのは、二人くらいだろう。

「はいはーい、今開けまーす!」

トランクを部屋の隅に戻してから、私はドアへと向かった。