Day15


今日は新しい海の探索に備えて、キノイとドリスと三人で買い物に行ってきた。
必要なものはあらかじめピックアップしていったけど、
行ってみるとやっぱり悩んじゃったりで、時間は結構かかっちゃったな。
でも、ちゃんと必要なものは全部買えたし、良かった。

私も靴を二足と、新しく服を買った。
水の中でも動きやすくて、普通に着ててもいい感じのが見つかって、すごくうれしい。
新しいものって、なんだかわくわくしちゃう。

明日からは、新しい海、海中島の海《アトランド》の探索に出る。
どんなものがあるんだろう。ちょっと不安もあるけど、今は楽しみ。
ガーゴイルとの戦いは怖かったけど、なんとか乗り越えられた。
だから、何があっても、きっと三人なら大丈夫。そう思う。

[手記6P目:買い物の日]


*****


――夜の底。

光の届かない暗所は、私達の居場所。人間の目が届かない場所で、長い間ひっそりと生きてきた私達は、当然のように暗がりでも灯りを必要としなくなっていた。
今日も、この底から見上げる空は、光に彩られている。夜であっても、煌々と、輝いている。人間が作り出したものは、人間の世界を広げた。代わりに、私達はこうして、暗闇を棲み処とせざるを得なくなった。
そのことに、私は、なんの感想も持たない。人に、害意も持たない。
友人であり、庇護者であった私たちへ、彼らが敵意を向けた時に、すべては決まっていたのだから。

地面を擦るような、足音。振り返れば、暗がりになお暗く、一つの気配が佇んでいる。
その正体を、私は知っている。だからこそ、ただ、言葉を待った。

「……夜明けの娘を、どこへ隠した」

たっぷり、二呼吸の間をおいて、低い声音が空を揺らす。
滲んだ怒りに、私は、ひとつ息を吐いた。

「あの娘は行ったよ。もう、こちらへは戻らない」
「何故だ!? あの方の、命を、力を継いでおきながら、何故!」

耳を打った怒鳴り声は、空の喧騒にまぎれただろうか。問いのくだらなさに、そんなことを思う。

「お前は、何を見ていた? あの娘は、あのひとではない」

旅立った姿を思い出す。つくりものめいた、人の英知が結実したもの。
外見を整えることに、何の意味があるのかは、分からない。けれど、彼女はうつくしい姿をしていた。
夕焼けの色を宿した髪と、失われた海の色を宿した瞳。白皙の面差しには、決意。
そのどれもが、この暗闇には似合わない。

「あのひとが求めたのは、人としての生。その代わりに、人であったあの娘は永遠に近い生を生きることになった。その償いに、生きるための力を残したまでのこと」
「それでも、」
「くどい」

言い募る闇の色とは、相容れぬ。夜明けとはよく言ったもの。
あの力を使って、暴力的に世界を変えたとして、その先に、何があろうか。

「あの娘をどう思うかは、お前の勝手だ。が、その生き方を決める権利は、お前にはない」
「っ……」
「分かったなら去れ。もう、あの娘は戻らない。我らは、常闇の住人であり続ける。それだけだ」

気配に背を向ける。話は、終わった。

「貴様は、それでよいと言うのか、アラルエッダ。我らは、虐げられるままで、異形と蔑まれるままで良いと、そう言うのか!」

激昂する気配にも、心は動かない。返す言葉も、決まっている。
それは、私達の、最初の過ちだ。

「それが、我らの宿命よ。愛したものを、傷つけることを拒んだのは、我らだ」
「……、私は諦めない。あの方が望まれた未来を、成し遂げるまでは」

引き摺るような足音を残して、気配は途絶え、私はひとりになった。
変わらない空の灯りを、私はただ、見上げる。
紺碧の夜空。夜の底たるこの場所とは、あまりにも違う。願うのは、ただ、ひとつ。

「エレノア、お前は囚われるな。その力は、お前の未来のためにある」