Day16


 深い深い、深すぎる海の底のような。深海牢という空間で、常人には耐えられないであろう圧力を、罪人は一身に受けていた。
 だというのに、彼女に辛そうな様子は見受けられない。鉄格子を隔てた先、深海人の騎士を挑発するように、口角は吊り上がっていた。

「警告は何度もしたはずだ。なのに、何故」
「さあ、自分で考えなさいな。アナタって、何でも人に答えを求めるタイプなのかしら」

 騎士の目尻が吊り上がる。牢の中から、「あら怖い」とおどけるような、馬鹿にするような声。
 どうして数多の船を沈めたか、なんて。考えればすぐに分かるのにと思った。
 いや、平和な海に馴らされた彼らには分からないのかもしれない。きっとそうなのだろう。

 それでも、ドリスはこの海の全部が気に食わないのだ。



 ***



 ガーゴイルの襲撃、イフリートとの戦い、そして新たな海。
 目まぐるしい環境の変化は、枷の機能を無効化するのに十分だったようだ。
 バチリと赤い閃光が跳ねる。ドリスは満足そうに笑った。
 一週間ほど前にひびが入った左手首の枷、だけではない。細かい傷がついた右足首の枷も、ドリスの魔の力を封じる効果をもう持たなかった。
 キノイに悟られず――つまり、枷を壊さず、その効力だけを無効化する。今のところ、完璧だった。

 罪人を封じる枷はあと三つ。
 それで、猫をかぶるのも、この仲良しごっこを演じるのも終わり。