ニーユの日記:38ページ目/空は澪色、海は何色?

これから、俺と一緒に戦っていた僚機だった、天ヶ瀬澪という女の子の話をします。
俺はミオ、とだけ呼んでいました。おとなしい性格の女の子です。普段は。
戦場に出ると人が変わったように火器を振り回す、――きっと、普通の女の子でした。
俺の知っているミオには、触れたことがありません。

というのもミオは幽霊で、俺の手は簡単にすり抜けます。もし俺に霊障の適性があったのなら、また違ったのかもしれません。
俺はあの日見たあなたのことを放っておけなくて、声を掛けて、うちにいればいいと言いましたが、あなたがそれをどう思っていたかは、この間までわかりませんでした。

そうです。あなたが遺していてくれていたものを、俺はやっと読みました。
あなたにそんな思いをさせていたこととか、あなたがそう思っていてくれたこととか、ようやく、全部、読みました。
俺は申し訳なくも思っていますが、一緒に嬉しくも思っています。
俺があのとき、あなたを呼び止めたことは、きっと間違っていなかったと、ようやく思えたからです。

ごめんね。たくさん心配をかけさせてしまって、ごめんね。
今更謝っても、もう遅いのは分かっています。
これは、俺が自分の気持ちを整理するために、書いているだけのものです。深い意味はどこにもありません。

結構前の話です。ミオとどこかの海に行く夢を見ました。
もうその時の海の色も、感触も匂いも覚えていないけれど、楽しかったことだけは覚えています。
俺とミオだけじゃなくて、他の人も一緒でした。

ミオが俺といて、幸せでいてくれて良かったです。
俺は結局あなたのことをあまり知ることはできませんでしたが、あなたもきっと、俺と同じように、あまりよくない子供時代を過ごしたのだろうということは、なんとなくわかります。
だから俺たちは、似た者同士だったのかもしれません。だから俺たちは引き合わされたのかもしれないし、そうじゃないかもしれません。
けれど俺は、あのときああしてよかったんだな、と思っています。

俺が、ミオを海に連れて行きます。
だから安心してください。安心して、どうか安らかにあってください。
あなたのさがしていたきょうだいに、会わせてあげられないだろうことだけが、俺の心残りだし、あなたの言う海が、どこなのかちゃんと聞いておかなかったのも、俺の心残りですが、それでも。

俺があなたを海に連れていきます。
その時まで、俺と一緒にいてください。

俺はミオが死んでしまった時に、ミオの身体を作ってもらったことを心底後悔しましたが、今はそう思っていません。
形だけでもあなたを海に連れていけるのだから、これ以上嬉しいことはありません。

この場所も、今はこの間までが嘘みたいに、綺麗な青い空が広がっています。
ちょうどミオの髪の色みたいな、綺麗な明るい青い色です。
海に行くまで、もう少しだけ、待っていてください。その頃にはきっと、この戦いも終わっているでしょうから。


いつかあなたがるいに会えますように
 ニーユ=ニヒト・アルプトラ